OU TOPOS 〜どこにもない場所〜





何も考えずに忘れていた。


だけどずっと覚えていた。


いつか帰れるとどこかで信じていた。



そんな幻をずっとどこかで見ていた。




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「寂しくなかったわけじゃないぜ?」


「ずっと忘れたままにしておきたかったから」


「憎んだりとかもあったけど…捨てられた自分自身を思い出したくなかったから。」



それは自分も同じだった。

「捨てた自分」を思い出したくなかった



「そんな自分を認めるのも癪だったしな。」

お前もそんな風に思っていたのか…。



「…お袋の言葉がなきゃこんな風しか思えなかっただろうけど。」


お袋…。
お袋はどう言ってたんだ?


「あの人は好きなようにやってるんだから、
 私たちも好きなようにやってやりましょう。って。」


「あの人はあの人。私は私。そして天国は天国。それでいい…って。」



お袋が…。



「自分に言い聞かせてもいたんだろうな〜。
 だけど御蔭ですげーオレは救われてた。」




「あんたもそうだっんじゃねえか?…兄貴。」


「…ソウダナ。」




全部忘れようとした。
野球だけを見ようとして……ずっとそうして来た。


だから忘れていたんだ。


「あんたも辛かったから…忘れてたんだな。」


「…ソウカモナ…。」




「だったらもういいよ。」




何故笑うことができる?

俺は…親父はお前らを捨てたのに。




お袋を死なせたのに




何故お前はお袋の墓の前で俺に笑いかけることができる?

何故憎しみをぶつけない?再会した時のように。




「あんたただって辛かったんだろ?それが分かったから。」



言いながら天国はポケットからなにかを取り出し、俺に差し出した。

「コレハ…?」


「お袋が親父に渡しといてくれって。
 …婚約した時に親父がお袋にプレゼントしたんだって。」


普通なら指輪なのになと手渡されたのは…金色のペンダントだった。


裏には両親の名前が刻まれている。


「天国、コレハ…。」


「結婚指輪は離婚した時に返したけどこれだけは手放せなかったんだと。

だけど…逝く前にもういいからって。」


「…。」

俺は何も言えなくなった。言葉がでない。


「オレもあんた達に会った時はまだ渡せなかった。
 オヤジの事もあんたの事もまだ…切り離す覚悟ができてなかったから。
 けど、アンタはまだオレたちをつなげていてくれたから。

 だからもう憎まなくてもいいって思えたんだ。」


「アマクニ…」



「これでオレもあんたも憎しみや罪悪感からは自由だ。
 
 
 もう忘れなくていい。
 思い出して憎む必要もない…。

 

 オレもお袋もあんたを許すよ。」

 
 「アマク…。」


天国は柔らかに…憑き物がおちたように清々しく笑った。





「これでやっとオレからさよならが言える。」





一方的に断ち切ったはずの
捨て切れなかった手が離れていく。



別れたあの時にも感じなかった痛みが胸を襲う。




帰れば帰りつけると
どこかで思っていた場所が消え去っていく。




「さようなら…兄ちゃん。」

天国は俺の横を通り過ぎて去っていった。



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いつか帰れると思っていた。

帰れるはずのなかった場所。



手放したぬくもり。




全てがなくなった時


どこかで 小さな自分が 泣いた。





end

お母さんが登場してないうちにと考えてみました。^^;)
こーいう決別もありかな、と。

補足説明いるかも…言葉が足りなすぎでスミマセン!!

ちなみにタイトルのou topos(ウ・トポス)はユートピアの語源。
ギリシャ語で「どこにもない場所」という意味です。


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